サンデー・モーニング
この前の、2月最後の日曜日、僕がやっている「二階の窓」は、テスト前の中高生向けに臨時オープンしていたのでした。
朝の9時から、午後の2時まで。空は青々と晴れていて、風が冷たいものの日差しはむしろ温かい、とくべつ理由もないのになんだか嬉しくなってくる、そんな日曜日の午前中。鍵を開けて、看板を出して、暖房をつけて、音楽をかける。それだけをやってしまうと、あとは特にやることもないので、買ったばかりの村上春樹の新作をいそいそと取り出して、日の当たる窓際の席で読み始める。
ややあって、子供たちがやってくる。あいさつを交わし、僕がお茶を淹れている間に、各々のやるべきことに取りかかっている。ときおり質問を受け、それに応える。それだけをやってしまうと、あとは特にやることもないので、また「騎士団長殺し」に戻る。
スピーカーからはシダー・ウォルトンのピアノトリオの演奏が聞こえてくる。1986年2月に録音されたとのことだから、僕がこの世に生まれてくるほんの少し前のことということで、ほとんどそれだけの理由で買ったアルバムだけど、なかなか気に入っている。そして、「騎士団長殺し」をめくる手は止まらない。
しばらくして、「先生、」と呼ばれる。
お、質問でもあるのかな。
「おなかが空いたので、お菓子もらえますか?」
僕は棚からおせんべいやらクラッカーやらを取り出し、適当に皿に盛って、「はいよ」と差し出す。「ありがとうございます。」そして、また、それぞれの個人的な静けさの中に戻っていく。
シダー・ウォルトン・トリオの演奏と、筆記具が机をたたく音と、本のページをめくる音だけが響く、そういう時間が流れていく。空はどこまでも青く、日差しは温かく、「騎士団長殺し」はいつまでも僕の手を離れない。
そのようにして過ぎた2月最後の日曜日の朝のことを、僕はわりに幸せな心持ちをもって思い出しています。そして、「二階の窓」のそういうところを、我ながら、とても、とても気に入っている。