説得力
- 2016年11月11日
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ついこの間、BONJOVIがニューアルバムを出したんだけど、そのことは知っていますか?と、出し抜けにこう言われても、「へ~、BONJOVI、まだやってたんだ」という反応が大方だろうし、「BONJOVIって、え~っと…」という人も結構いるだろうし(「ほら、It’s My Lifeの、あの」「あ~!…え~っとぉ…」)、若い人を中心に「ぼんじょび?」という人だって大変たくさんいらっしゃるだろうことは、重々わかってる。そんなことはわかってるけど、僕にとって彼らの新譜が出るというニュースは飛び上がって喜んで発売日を指折り数えて楽しみにするべき一大イベントであり、3,000円を握りしめてCD屋さん(めっきり少なくなりましたね)に走るべき最優先事項であり、しばらくの間それ以外のCDがプレイされる機会は、「滅多にない」と「皆無」の中間くらいをさまようことになる。なにしろ、僕はだいたい12歳くらいのころから一貫して彼らのファンなのだから。
というわけで、ここから先は一介のBONJOVIファンとしての僕が待望の(3年ぶり)ニューアルバムを手に入れてほやほやで、無限ループ的に聴き込んでいて、とにかく嬉しくって仕方がない、という文章が繰り広げられます。そんなの読んでる暇はないんだという人は、どうぞここで読むのを止めてもっと有意なことに時間を使ってください。この文章にはひとかけらの耳寄りな情報も(強いて言えば、「BONJOVIの新譜が出た」ということだけど、これは既出)はっと目を見開く独創的な知見も、思わず胸を突く深い考察も、そういうのは一切ありません。
さて、この度発売された「THIS HOUSE IS NOT FOR SALE」は彼らの14枚目のフルアルバムです。BONJOVIはデビューが1984年だから、キャリア32年で14作、だいたい2~3年に一枚アルバムを作り続けているということになる。2~3年に一枚と言っても、アルバムが出るごとに1~2年のツアーがあるから、インターバルはほとんどないも同然。息の長いバンド(U2、エアロスミス、ローリングストーンズ…)が得てしてそうであるように、彼らもまた実に働き者である。そして、働き者の集団にありがちなことだけど、途中でついて行けなくなるメンバーが出てくる。今回のアルバムから、デビュー以来のギタリストでありフロントマンのジョンに続く人気者だったリッチー・サンボラが脱退した。言うまでもなく、これはちょっとしたことです。バンドは新しいギタリスト、フィルXを加入させ、彼のギターと共に新曲を録音した。そういうわけで、このアルバムの聴きどころのひとつに、「リッチー・サンボラを欠いたBONJOVIの楽曲というのはいかなるものか」という命題が、どうにも避けられない運命みたいに立ちはだかることになる。
という予備的背景知識を頭いっぱいに詰め込んで、僕はアルバムを聴く。そして、妄信的だと言われるのは覚悟のうえで、これは確かに素晴らしいアルバムだと、そう思う。「ここにリッチーのギターがあればな…」みたいに思うことは、ほとんどない。それはひとつに、楽曲の構成が意図的にギターパートを前面に立たせることを抑制したつくりになっている(代わりに、キーボードのデイヴィッド・ブライアンがより前に出ている感がある)、というのものあるんだろうけど、やはりここでは新しいギタリスト、フィルXの腕を称賛しておきたい。僕が称賛したって仕方ないんだけど、それでも、彼のプレイには前任者でありバンドの歴史を築いたリッチーへのリスペクトが、あくまで自然な形で息づいているように感じられる。別にリッチーを模倣しているという風には聞こえないのだけれども、そういう個人のスタイル云々を超えて、「BONJOVIのギターサウンドといえば、これ」という、老舗の料亭が秘伝の出汁の味を守り続けるみたいな、そういう努力の跡がしっかりと作品に表れている。フィルXは確かに大人な、いい仕事をしている。
シングルカットされた表題曲もいいけれど、僕はとりわけハイテンポでキャッチーな「ROLLER COASTER」がすごく気に入りました。時間にして3分半という短い曲で、メッセージも明確かつシンプル。ドラムのティコ・トーレスがここを先途と叩きまくっている。まるで20代の青年が書いたみたいな曲だけど、よーく歌詞に耳を傾けると、これは確かに50代を迎えて成熟した男性としてのジョン・ボンジョヴィにしか書けない世界観だなと、そう納得する。
Hold on tight, slide a little closer
(さあつかまって、もう少しこっちにおいで)
Up so high, stars are on your shoulders
(ほら高いだろう、星がすぐそこだよ)
Time flies by, don’t close your eyes
(時間はあっという間に過ぎていく、目を閉じちゃだめだ)
Kiss by kiss, love is like a thrill ride
(キスからキスへ、恋はまるで絶叫マシーンだし)
What goes up might take us upside down
(上に上がったと思ったら、真っ逆さまにひっくり返るなんてこともある)
Life ain’t a merry go round
(人生はメリーゴーランドじゃないんだ)
It’s a roller coaster
(ジェットコースターなんだよ)
ボリュームを目いっぱい上げてこの曲を聴いていると、まるで本当に自分がジェットコースターに乗っているみたいな気がしてくる。説得力。それは彼らが30年以上の間音楽シーンから脱落することなく第一線を張っている主な理由の一つだと僕は思う。なるほど、この誰にとっても忙しい21世紀の人生は、平和なメリーゴーランドというより、ワイルドなジェットコースターなのだ。ぐるぐる回っているうちに、どっちが上でどっちが下か、果たして自分が前に進んでいるのか後ろに退いているのか、まるで分らなくなってくるような、そんなところがある。それぞれの時間はあっという間に過ぎていき、誰もが何かしらのアップダウンとその中間をくぐり抜ける。そして、時に僕らはいやおうなしに、「もはやここまで」のどんづまりみたいな場所に待ったなしで運ばれているような、そんな気がすることがある。そんなとき、ジョン・ボンジョヴィならこうする。
Let’s slip right off these tracks
(さあ、このレールから飛び降りよう)
We’ll fly or we might crash
(墜落したくなければ、飛び出すことだ)
Don’t look down, don’t look back
(下を見ちゃいけない、後ろも振り返るな)
Cause it ain’t over
(だってまだ終わってないんだよ)
そう、そんなとき、ジェットコースターから飛び降りてしまうのが、ジョン・ボンジョヴィという人なのだ。彼はそのようにして、大きすぎた成功ゆえの燃え尽きを乗り越え、テロのショックに沈むアメリカを勇気づけ、バンドに降りかかった幾多の危機を切り抜け、今もこうして一貫して前向きなメッセージをキャッチーなメロディーにのせて歌い続けている。彼のそんな作風を「マンネリだ」とか「古臭い」とか断じることは容易いだろう。確かに、BONJOVIの作品にはある種の金太郎飴的再帰性がはっきりと認められる。彼らの音楽は常に「いかにもBONJOVI」的であり、最新のミュージックシーンの傾向とか、新規マーケットの開拓とか、そういうことが熱心に検討されている様子はあんまりない。
でも、それがどうしたというのか?僕らがBONJOVIに求めるのは、まさにその「いかにもBONJOVI」的に親密な再帰性なのだから。僕らは彼らの「お決まりの」前向きさを好み、そのキャッチーでわかりやすいメロディーを支持し、「聞いた途端に懐かしい」ような新曲を心待ちにしているのだから。そして、彼らがやっていることを、彼らよりも上手くやれる誰かというのを、少なくとも僕は思いつけないのだから。
BONJOVIの説得力は、だから、時にして人を本当に走行中のジェットコースター(もちろん、比喩としての)から飛び降りさせるだけの影響力を持ったりする。僕もまた、うっかりして、ジェットコースターから飛び降りたりするかもしれない。いったい誰にそれを押しとどめることができるだろう?
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